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リーダーに何を求めるのか?
会社などで働いていると、どうしてあの人が昇進するんだろう?と思うような人物が上役になったりする経験がありませんか?
もっと言えば、社員を思いやる精神に欠ける社長や部下の手柄を横取りするような部長が蔓延っている原因はどこにあるのでしょうか。
今回は比較的「まとも」と考えられている海外企業を中心に、その理由を紹介して行きます。
なぜ謙虚を求める
私達の多くが間違えているのは、リーダーや部長などに謙虚な姿勢を求めてしまう事だ。
もちろん、リーダーが謙虚でなければいけないという話は筋が通っている。
実際、自分をしつこく宣伝する人は他人からの評価が低く(1)、いちばん有能と思われるのは適度に謙虚な人間(2)だ。
他にも、謙虚なリーダーの存在は部下に対してもプラスの心理的な力を発揮する。
例えば、「潜在的自尊心」と呼ばれる自分に直結するものや自分に帰属すると思えるものを好む傾向がある(3)。
これは「自分が必要とされている仕事」や「自分がリーダーだと認識する仕事」には熱心に取り組むようになることを言う。
また「授かり効果」と呼ばれる、自分の所有するものに高い価値を感じ、それを手放したくなくなるという心理的効果もリーダーによって発揮される。(4)
つまり謙虚なリーダーは部下を信頼して、彼らに仕事を任せてやる気を引き出し取り組ませ、会社に大きな利益をもたらす可能性を上げてくれるだろう。
謙虚という姿勢は、会社や部下の為にも目指すべきものに思える。
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謙虚でない方が得
ところが現実的には謙虚なリーダーなど、殆ど居ないのが実情。
また「謙虚さ」と「業績」の相関性を調べた研究の数は少なく、むしろナルシシズムや自己中心主義を扱う研究の方が多い。
そしてナルシシズムと言われれば、自己宣伝や自己顕示欲などの単語が思いつくかもしれない。
ナルシストは、まるで利点がない問題児のような存在だと考える人が居るかもしれないが、企業の社長や部長の多くにその傾向が見られるのだ。
これはどういうことだろうか?
そもそもナルシストとは、自己のアピールを格別上手くやるので採用者側の印象に残りやすい。
つまり、自己宣伝が上手い人間ほど面接で推薦と同じくらい採用されやすく(5)、また企業の上役にも選ばれやすいと言う事。
なぜなら、選ぶ側がその存在に気づいていないと人を選びようがないからだ。
陰でひっそりと成果を挙げる人よりも、噓八百で自信満々に自己アピールできるナルシストの方が皆の意識に残りやすい。
カルフォルニア大学バークレー校のキャメロン・アンダーソン達が行った調査では、自信があるどころか自信過剰な人でさえ、高い社会的な地位、尊敬、影響力を勝ち得ている事が分かった。(6)
また軍隊の将校選抜を調査したある研究でも「自信、カリスマ、楽観主義etc.....はリーダーシップにとってプラスであり、同僚や上司からの高い評価につながる」と結論付けられていた(7)。
さらにMBAコースに在籍する社会人学生のうち、エグゼクティブ経験者の討論を専門家に評価してもらったところ、ナルシスト度の高さがリーダーシップ能力の高さと相関性の関係にあった。(8)
こうした研究から見ても、自己アピールをすることには謙虚であるメリットが打ち消されてしまう程の利益が得られることが分かる。
他にちょっと変わった研究だが、ナルシストに関して有名な画家のサインを調査したものがある。
絵画のサインが大きな人ほどナルシストの傾向が強く、そして高値で絵が売れていた。(9)
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「自分らしさ」という嘘
よく「自分を偽らずに自然体でいるべき!」などと言う言葉を目にする。それ自体は素晴らしい考えだ。
自分を偽っても辛いだけだし、実際にもストレスに悩まされやすくなる。
でもこのことが会社や組織のリーダーにも当てはまるのだろうか?
答えはNO
「自分らしさ」とは日常生活で成り立つものであり、ビジネスの世界には相容れない。
例えば、読者が投資家だとして、これからこの会社に資金援助をするべきか社長と話をしたとしよう。
もし、相手の社長がトンデモなく内向的で「えっとぉ、どうにか援助して欲しいです」と言われたら、不安にならないだろうか?
逆にスティーブ・ジョブズみたいに、堂々と会社のビジョンを語るような情熱のある社長なら投資してみようとかと思うだろう。
つまり、相手の信頼を得たいなら信頼されるような性格を偽る必要があるという事。
「自分らしい」姿を他人に理解してもらえるほど、相手暇じゃない。
そもそも「自分らしさ」を維持するのは不可能
自分に忠実であることを意識しすぎて、周囲の条件や制約を無視したり、それに抵抗すると他人との関係に軋轢や確執が生まれる。
ミシガン大学社会学研究所のシーモア・リーバーマンは、中部にある家電メーカーの従業員4000人を調査した(10)。
最初の調査後、23人が職長に35人が組合役員になり、しばらくして再度調査をしたところ職長になって会社の管理側になった人は、会社に協力的だったし、組合役員になった人は組合寄りの姿勢になった。
しかし、組合役員や職長の何人かが元の従業員に戻されると、組合や会社に対して好意的では無くなった。
結果から分かるのは「自分らしさ」などは微塵もなく、自分の「立ち位置」次第で考え方がころころ変わるという事実。
さらに、ジェラルド・サランジックとジェフリー・フェファーは、州立大学の事務次官53人の行動を調査を行った。(11)
ここでも結果として、部下からの期待は社会的な行動に、上司からの期待は仕事上の行動に強く反映され「自分らしさ」などはまるで関係が無かった。
以上の研究から見てみると、「自分らしさ」というものはビジネスで概ね役には立たないという事実。
「誠実」かつ「自分らしさ」を持つ人間は、会社の隅に存在すら気づかれないまま放置される運命が待っているだろう。
終わりに
結局のところ、多少なりとも自分を偽って好まれる性格を演じなければ行けない時もある。
有名人は、言いたいこと好きなだけ言っているイメージがあるが、それはあくまで例外的な存在だ。
もし貴方が自分の事を稀代の天才だと思っているなら、ある意味ナルシスト的な傾向があるので会社で上手くやっていけるだろう。
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参考文献
書籍
論文
・(1) C. Wortman and J. Linsenmeier, "Interpersonal Attraction and Techniques of Ingratiation, " in New Directions in Prganizational Behavior, eds. B. M. Staw and G. R. Salancik (Chicago: St Clair Pess, 1977), 133-78.
・(2) W. Wosinska, A. J. Dabul, R. Whetstone-Dion, and R. B. Cialdini, "Self-Presentational Responses to Success in the Organization: The Costs and Benefits of Modesty, " Basic and Applied Social Psychology 18, no. 2 (1996): 229-42.
・(3) Brett W. Pelham, Mauricio Carvallo, and John T. Jones, "Implicit Egotism," Current Directions in Psychological Science 14, no. 2 (2005): 106-10.
・(4) Jack L. Kentsch, "The Endowment Effect and Evidence of Nonreversible Indifference Curves," American Economic Review 79, no. 5 (December 1989): 1277-84.
・(5) Karin Proost, Karel De Witte, Bert Schreurs, and Eva Derous, "Ingratiation and Self-Promotion in the Selection Interviewer Judgments," Journal of Applied Social Psychology 40, no. 9 (September 2010): 2155-69.
・(6) C. Anderson, S. Brion, D. A. Moore, and J. A. Kennedy, "A Status-Enhancement Account of Overconfidence," Journal of Personality and Social Psychology 103, no. 4 (October 2012): 718-35.
・(7) Rosenthal and Pittinsky, "Narcissistic Leadership," 623.
・(8) Amy B. Brunell, William A. Gentry, W. Keith Campbell, Brian J. Hoffman, Karl W. Kuhnert, and Kenneth G. DeMarree, "Leader Emergence: The Case of the Narcissistic Leader," Personality and Social Psychology Bulletin 34, no. 12 (2008): 1663-76.
・(9)https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/1351847X.2016.1151804?journalCode=rejf20
・(10) Seymour Lieberman, "The Effects of Changes in Roles on the Attitudes of Role Occupants," Human Relations 9, no. 4 (November 1956): 385-402.
・(11) Jeffrey Pfeffer and Gerald R. Salancik, "Determinants of Supervisory Behavior: A Role Set Analysis," Human Relations 28, no. 2 (March 1975): 139-54.