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著者・書籍情報
著者:フィリップ・ジンバルドー
スタンフォード大学心理学者名誉教授。エール大学、ニューヨーク大学、コロンビア大学でも教鞭をとる。
米国心理学学会会長、スタンフォード対テロリズム総合政策教育研究センター所長を歴任。
他の著書に【シャイネス】や「迷いの晴れる時間術】などがある
書籍:【ルシファーエフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき】
スタンフォード大学で行われた歴史上稀に見る、人間の残虐性と環境がいかようにして凡庸な人を、次世代の独裁者に仕立て上げてしまうのかを克明に記している。
どんな人にお勧めか?
「虐待や人を平気で殺せる奴は、元からサディストだったんだ!」
「悪さをするのは、ごく一部の限られた異常者だけだ」
と考える人にお勧めとなっている。
本書の中には、少々キツイ表現もあるかもしれないが、どうしたら人を物のように扱うような人間が現れるのかを知ることが出来る。
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性格は状況で変わる
海外や日本でも、人が犯罪を犯すとその人間の生まれ持った性格や遺伝子を問題視する声が多い。いわゆる個人主義だ。
しかし、人間という者は生まれ持った性格だけでなく、その「場」の状況によっても簡単に性格を変えられるのだ。
例えば、代表的なのはインターネットだろう。
匿名で好きな事を相手に伝えたり書き込めるSNSなどは、自分の名前を明かす事無く意志を伝える事を可能にした。
日本では特にTwitterが人気で、いたるところでオンラインの会話が行われている。
しかし、匿名という仮面は、その人の個性を没個性化させる。
人は没個性状態になると、容易く反社会的で利己的な行動を取りやすくなる。犯罪と言わないまでも、他人に侮辱的な言葉を使ったり、差別的な発言をを平気で言い合うようになる。
では、没個性化した人は普段から素行が悪く社会に害を及ぼす存在なのか?
答えはNOだ。
つまり、普段は礼儀正しく振舞って適切な友人関係を構築しているはずの人でも、インターネットと言う没個性の温床へ足を踏み入れたが為に、他者に対して暴言を平気で吐けるようになる。
親だろう親友だろうと関係はない。
よく炎上に関わる人たちを、暇人の集まりと揶揄する人がいるが、ところがどっこいその張本人が貴方の隣に座っている親しい友人かもしれない。
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スタンフォード大学で行われた伝説の実験
本書の著者であるフィリップ・ジンバルドーは、自身の研究の一環として行ったスタンフォード大学監獄実験を内容として載せいている。
内容に関する具体的な話は省くが、集められた大学は監守役と囚人役にランダムで振り分けられて実験がスタートする。
最初は両者とも、気軽な気分で実験が進んでいくが、一日を過ぎたあたりで看守の態度や囚人の態度に急変化が訪れる。
実験は14日間を予定していたが、わずか6日で終了した。
これは、看守役の生徒による虐待や囚人の精神不安が限界に達し、さらにジンバルドー自身も実験に飲み込まれてしまったことからの判断だった。
この実験で発生した出来事は、事前に心理学者達が学生に性格分析を行い異常が無いことを確かめたはずなのに、看守役の生徒が暴走して性的な罰を与えたりするようになった。
ここからジンバルドーは、「状況の力」の存在を見つけ出すことに成功する。
そしてそれは、かつてナチスドイツの善良な人々が、平然とユダヤ人を惨たらしい拷問の末に殺せるようになったのかを考えるのに役立った。
「普通の人」から「虐殺者」になる
大抵、ナチスドイツを筆頭にベトナム戦争のアメリカ軍兵士による現地住民の虐殺、ルワンダのフツ族によるツチ族の大虐殺に至るまで、まるで他人事のように私達は見ている。
「そう言う頭のおかしい奴らがいたんだんなぁ」と対岸の火事の如く静観してだけだ。
ところが、スタンフォードの監獄実験を通して見ると、虐殺をした人々は恐ろしく普通の人だ。
ナチス親衛隊員の精神分析でも、どこにも異常がなくむしろ素晴らしい性格の持ち主であることが分かった。
ではなぜ彼らはそのような残虐極まりない行動を取ったのだろうか?
これは一つに、人は信念と行動に認知的不協和が訪れると、辻褄を合わせる為に理由付けすることが原因と考えられる
例えば、本来は虐待をしてはいけないが、組織から「拷問をしろ!」と圧力を掛けられた場合どうなるだろうか?
自分の中では、「拷問」は酷く非難されるべきものだが、逆らう事が出来ない状況になると理由を付け始める。
例えば「こいつは人間じゃない、だから拷問しても問題ない」とか「上からの命令に従っただけだ」と考えて不和を合わせようとする。
結果として、虐殺に手を染めている間の自分の精神を保たせているのだ。
自己奉仕バイアスに取りつかれている
今の話を聞いても残念ながら大抵の人は、「自分はそうならない」と考えているに違いない。
あるいは「俺だったら、反抗する」と考える人もいるだろう。
しかし、実際には私達は集団の圧力によって心をがんじがらめにされてしまう。
例えば、ある属性の集団に所属していたとして、その集団が貴方に「アイツをいじめろ」と言ったとしよう。
大抵は「嫌だ」と答えるのが適切だが、本当に言えるか?
みんなが言っている事に対して自分だけ頑固としてNoと発言できるか?
多分無理だろう。
これは集団が持つ圧力と自分の内側にある自己圧力によって板挟みによるものだ。
駄目だと分かっているが、仲間外れにされたくない。その為には、やるしかない。
集団に同調して、認知的不和をなくすために責任を集団に帰属する。
何かあっても「私は命令されただけだ」と言って責任逃れをしようとする。
そして、自分もいじめに加担してしまうのだ。
見てみぬふりをする集団
さらに本書の中では、人が虐殺やイジメの被害にあっていることを黙って静観しているだけの人たちについても話している。
アメリカで起こった痛まし事件を背景に、なぜ人は困っている人を無視してしまうのかを環境の要因が原因の一つとして挙げている。
例えば「傍観者効果」、これはある事柄に対して自分以外の人が複数人いる場合に、助けたりすることが出来なくなってしまう効果の事を指す。
多分、身に覚えがある人は沢山いるはずだ。
街中で困っている人が居ても、「誰かが助けるだろう」と思って通り過ぎてしまう。または、「私には関係ない」と考えるかもしれない。
しかし、その困っている人と貴方が道で二人だけしかいなかったら、無視して通り過ぎることが出来るだろうか?
大方の人は足を止めて、「どうしましか?」とぐらいは声を掛ける可能性が高い。
でもそれが、大衆の中の一人になってしまうと、途端に無視を決め込んでしまう。
過去に行われた大量虐殺の中にも、駄目だと分かっていながら虐殺を止めさせることをせずに、ただ見ているだけの人間は沢山いた。
これはある意味「集団」が一つの没個性の場として機能している事が分かる例だと考えられる。
普段は気弱なのに集団の中にいると、挑発的になったりする人を見かけたら正にこの環境の力働いていると考えるのも重要だ。
本を読んだ感想
本書の多くは著者自身が行ったスタンフォード大学監獄実験をメインに話を進めている。
実験の内容を詳細に記してあり、そこに登場する人たちの人格変化や個々の持つ隠れた性格がたった6日程度で明らかになり始める。
あまりにも内容が濃いので、6日間の話が倍に感じる程に目まぐるしく実験が変化を遂げる。
さらに後半では、実験から得られた考えを元に世界で行われた虐殺を取り上げて、そこで起こったであろう環境や人の変化を考察する。
最後では、その解決方法も考察すると共に、アメリカではフィリップ・ジンバルドーの実験を元に刑務所の改善を行ったことや各国の英雄を、その英雄たるゆえんを定義しようとする話を展開している。
この本自体は辞書よりも大きいが、辞書ほど重くはない。
文字も大きく見やすいので、小っちゃい文字がびっしりと書き込まれている訳ではない。
もし、人がどのようにして変わっていってしまうのかを明確に知りたいのなら、この本はその答えの一部を見せてくれるだろう。
終わりに
ここまで、見てくださり本当に有難うございます。 よろしければ、「読者登録」や「はてなスター」等を付けてくださると嬉しいです!
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