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三種類の思考
我々は普段の日常生活を送る中で、様々な選択を行っている。
しかし、その選択を決める際にどのような判断を脳が下しているのかまで、考えた事はあるのだろうか?
人間は、基本的に二つの思考を行っていると言われている。
一つ目が「速い思考」である
速い思考と言うのは、直感的で素早く考える事を指している。
例えば、アイスクリームを見て「美味しそう」と即座に判断して、購入してしまう時などが該当する。
反対に「遅い思考」がある
遅い思考とは、じっくりと考え、熟考する際に使われる思考だ。
例えば、複雑な計算を判断したり、企画書を作製したり、旅行の計画を練ったりと、直感的には判断できない時に活躍する。
今までは、速い思考と遅い思考の二つだけが存在していると考えられていた。
ところが、昔から俄かに噂されていた、3つ目の思考が、最新の脳科学&心理学の発展に伴い明らかになって来た。
それが、無意識思考である
簡単に説明すれば「特定の問題に対して意識が向けられていな状況で起こる思考」だ。
と言われても、分かりにくいだろうから、さらに詳しく研究も紹介しながら解説していく。
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無意識思考のメリット
無意識な思考が役に立つ場面は幅が広い。
例えば「友人」や「結婚相手」など、自分の人生を左右しかねないタイミングにも生かせる。
ある実験は(1)、遠方から来る学生達と大学内の寮で共に生活するのがポピュラーな海外の大学で行われた。
3人で1つの部屋をシェアする際に、被験者には架空の男性ルームメイト候補者9名に関する情報から、ルームメイトを選んでもらう。
それぞれの人物が150文字前後の文字で紹介され、その中に12の性格の特徴が書かれており、被験者は3種類の思考条件に分けられていた。
①直感条件
この条件では、ルームメイトの情報を読んだら即座に判断をしなければならない。
②意識思考条件
この条件は3分間の時間を与えられるので、じっくりと考える事が出来る。
③無意識思考条件
この条件では、ルームメイトの情報を読んだ後に全く関係ない課題をやらされ、その後、ルームメイトについて判断するというものである。
結論から先に言えば、①と②の思考条件では正確にルームメイトを正確に評価できたのは35%ほど。
ところが、③の無意識思考では60%も正しい判断をすることが出来た。
さらに、相手の嘘をどの程度見抜けるのかについても実験が行われた。(2)
スーツを着用した大学生が、自分が参加したインターンシップに関して話をする動画を、参加者に8パターン用意した。
インターンシップについて、嘘を言っている学生と本当の話をしている学生がいますが、どの程度の割合で存在するのかを答えさせる。
①直感条件
動画の視聴前に、嘘を言っている人がいると説明してから視聴してもらい、視聴後はすぐに判断させた。
②意識思考条件
動画の視聴後に、嘘を語っている人がいることを説明し、3分間じっくりと考えもらってから判断させる。
③無意識思考条件
動画の視聴後に、嘘を語っている人がいる事を説明し、全く関係のない課題を3分間やってもらってから判断させる。
こちらも結論から先に言えば、こちらでも③の無意識思考条件の参加者が一番、嘘を見抜くのが上手かった。
これは、結論を慌てて出したり、逆に考えすぎたりするよりも、一旦脇に置き別の事を考え、ワザと意識を逸らして時間を空けると良い判断が出来る可能性を示した。
また他の買い物の実験(3)だろうと、ビジネスに関する実験(5)だろう、無意識思考条件が一番良い判断をしている事には変わりがない。
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無意識を起動する3つポイント
ここまで無意識思考について話をしてい来たが、実のところ無意識を発動するには条件が存在する。
ポイント1:無意識を起動するには時間が掛かる
先の実験から、無意識思考を働かせたいなら、一旦、別の事に注意を逸らしてから、また考え直すという方法が良いと言う事は理解できただろう。
しかし、その注意を逸らす時間がどの程度必要なのかは個人差があるため定かではない。
例えば、ある実験で無意識思考の時間を「1分間・3分間・5分間」で設定し、どの時間が最も無意識思考の効果が出やすいのかを検証した(4)。
すると最も良い選択を出せる時間は3分間だった
実験で使われる注意を逸らす為の妨害課題は、どれも基本的に意図して退屈なモノが多いので、長い時間拘束されると参加者がイライラして来るという結果も出ている(5)。
だが現実の世界では、必ずしも同じ事が言える訳ではなく、無意識思考を使う時間に関してはそこまで気にする必要もない、という見解もある。
ポイント2:何かに注意を向ける
今更な話にも思えるが、ここが無意識思考の重要なポイントなので話をしなければならない。
無意識思考を起動させるには、目の前の問題とは関係の無い対象に、注意を向ける必がある。
だが、意識を逸らせるのなら「何でも良い」というワケではない。
ある研究(6)(7)から、意識を逸らせるには、簡単な妨害課題を行った方が良いことが分かっている。
余りにも難しい妨害課題を出すと効果が無く、逆に自分にとって「楽しい」や「気持ちの良い」ことを行った方が無意識思考を起動しやすくなる。
ポイント3:目的を明確にする
無意識思考を使う際に間違えてはいけないのが、目的意識を持つことである。
それは研究(8)でも同じ結果出ており、「何について考えているのか?」がハッキリしない問題では、いくら無意識思考を使ったとしても役には立たなかった。
無意識思考では、まず「その問題の目的は何か?」を明確にすることを心掛けた方が良いだろう。
終わりに
最初に紹介した「速い思考」と「遅い思考」は、有名なダニエル・カーネマンらの著書でもある『ファスト&スロー』で言われているから知っている人も多いだろう。
だが今回、紹介した「無意識思考」は研究者の間でにわかに呟かれたいたが、遂にその存在を表し始めたという個人的な感想です。
併せて読みたい記事はこちら
参考文献
・その科学が成功を決める(文藝春秋,2012年)
・ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房,2014年)
・Third thinking 最先端の脳科学・心理学研究が証明した“最強の思考法(あさ出版 ,2020年)
・(1)Dijksterhuis, A., et al., On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 2006. 311(5763): pp. 1005-1007.
・(2)Strick, M., Dijksterhuis, A., and van Baaren, R.B., Unconscious-thought effects take place off-line, not on-line. Psychological Science, 2010. 21(4): pp. 484-488.
・(3)Reinhard, M.-A., Greifeneder, R., and Scharmach, M., Unconscious processes improve detection. Journal of Personality and Social Psychology, 2013. 105(5): pp. 738-762.
・(4)Messner, C. and Wänke, M., Unconscious information processing reduces information overload and increases product satisfaction. Journal of Consumer Psychology, 2011. 21(1): pp.
・(5)Abadie, M., Waroquier, L., and Terrier, P., Gist memory in the unconscious-thought effect. Psychological Science, 2013. 24(7): pp. 1253-1259. 9-13.
・(6)Yang, H., et al., Unconscious creativity: When can unconscious thought outperform conscious thought? Journal of Consumer Psychology, 2012. 22(4): pp. 573-581.
・(7)Strick, M., et al., A meta-analysis on unconscious thought effects. Social Cognition, 2011. 29(6): pp. 738-762.
・(8)Baird, B., et al., Inspired by distraction: mind wandering facilitates creative incubation. Psychological Science, 2012. 23(10): pp. 1117-1122.
・McMahon, K., et al., Driven to distraction: The impact of distracter type on unconscious decision making. Social Cognition, 2011. 29(6): pp. 683-698.
・Bos, M.W., Dijksterhuis, A., and van Baaren, R.B., On the goal-dependency of unconscious thought. Journal of Experimental Social Psychology, 2008. 44(4): pp. 1114-1120.